茨城におけるものづくり企業経営史(4)

質問者:油圧は人気がないということですか。

 

高橋:現状はそうです。油圧というのは表面に出ない縁の下の力持ちです。ディズニーランドの地下に行くとよく分かりますが,そこには油圧機器がたくさんあります。例えば「カリブの海賊」というアトラクションがありますが,あの船を動かし、周りの人形を動かす際には,そのほとんどを油圧で制御しています。空気圧でも制御できるのですが,空気圧だとなめらかな動きができません。また「スターウォーズ」では,座席がガガガと揺れ、画面と一体になって下に落ちていく時には降下するような感覚があります。あれは座席の下に油圧機器が60個設置されているのです。シリンダーがあって,こっちを下げたりあっちを上げたりしながら体感させる仕組みです。ディズニーランド以外では,飛行機のパイロットが飛行訓練を行うためのシミュレーション設備などで使われています。

 

質問者:宇宙飛行士のトレーニングでも使いませんか。

 

高橋:使います。しかしなかなか表に見えないものです。

 

質問者:熱処理も同様に人気がないのですか。

 

高橋:ないですね。熱処理自体は2000年前からありますが。

 

質問者:歴史は古いが,新しい成果を出しづらいために人気が無いのですか。

 

高橋:進歩がないからということよりも,むしろ熱処理の技術者というのはどれだけ多くの失敗を積み重ねて,その積み重ねた失敗を技術の方に落としこんでいけるかという点が重要です。というのは,理論ではまだ完全に解明できていないところがたくさんあるからです。ですから我社の場合でも,熱処理の炉を入れる時には火の神様を怒らせると大変だからということで,神主さんをお呼びして祈祷してもらいました。

 

質問者:マニュアルにはしきれない微妙なものがあるということですか。

 

高橋:そうです。ですから例えば中国とか新興国で車の組み立てを行う場合,エンジンのコアパーツを日本から持ってくることになるのですが,その部品の性能とか車の性能や寿命などを決めるのは11個の部品です。その部品では材料と焼入れ=熱処理工程が大切です。しかしこれらは地味な分野です。また実際の作業現場で技術者はそれほど沢山いりません。我社の場合も熱処理の技術者は2人しかいません。熱処理の作業自体は難しくないので,いったん技術者がセッティングすれば,あとは現場の従業員が担当することになります。

 

高橋:それから20082月にはISO14001の認証を取得しました。これは環境のISOです。そしてこの年の4月には,経産省の「元気なモノづくり中小企業300社」に選ばれました。なおこの時は茨城県から5社が選ばれました。

 

高橋:また2008年には,コマツの45トンクラスのフォークリフト向けバルブをOEMで作り始めました。そしてリーマンショック後の2009年には,東京工場を閉鎖して茨城に統合しました。そしてこの年に日立建機へPS(パワーショベル)用のレギュレータバルブの納入を開始しました。PSの1つのポンプには2台のレギュレータが付きますが,日立建機向けのポンプは全て我社で引き受けることになりました。さらに2011年には,我社にとって一番の商品であるメインスプール(油圧ショベルに搭載するコントロールバルブ用スプール)の増産に向けて新たな設備を導入しました。その結果,これまで月間8万本の出荷数であったところを,さらに2万本増やし,現在の10万本の生産が可能となっています。

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